2013年10月14日月曜日

KOKO-狐子- 第2話②

ちょっと書いたので、書いたところまでアップします。
サイトの更新なんて待っとれん!…という方はどうぞですm(__)m





「駄目?」

おまけとばかりに、頬に羽根のような口づけを落としてみる。
そっとグリーンから離れたレッドの視界には、真っ赤なまま固まっているグリーンの姿があった。
けっこううぶなんだなぁと妙に感心するレッドの前で、グリーンはもはや沸騰寸前にまで陥っていた。
正直、キスくらいグリーンだっていくらでもしたことがあるしされたこともある。
自慢にならないが、された数のほうが断然多いほどだ。
そして頬にされたくらいでこれほどまでに顔が熱くなったことなど、自分の記憶の限り、一度もない。
そんなグリーンの事情など露ほども知らないレッドは、チャンスとばかりにグリーンへと抱き着いた。
そのままグリーンの手を取り、その手を自分の胸元に…

「だぁあぁああああ!!分かった!分かったからとりあえず離れてくれ!!」

触れさせる前に、グリーンが観念したように顔を逸らせて後ずさった。
横を向いたせいで正面に見えた耳は真っ赤。
レッドはにこりと微笑むと、ありがとう、と呟いて自らもグリーンから一歩退いた。

「じゃあ、グリーン。何からすればいいかな?無難に耳かきとかどう?」
「いや、何もしなくていいよ」

猛烈に熱い顔を手うちわで紛らわせつつ答える。
何なのだろう、この狐は。
こちらをおちょくって遊んでいるのだろうか。
訝しげなグリーンの視線にも、レッドは邪気のない笑みを返してくる。

「じゃあ…」

そしてまた近くなる距離。
体勢的に後ろに下がることも適わず、思わず目を瞑ったグリーンの目蓋に柔らかくて温かいものが触れた。
驚いて目を開ければ、ミリの距離に薄桃色のふっくりとした唇。
直視できる筈もなくまた目を瞑れば、今度は反対側の目蓋に。
訳が分からない。
この狐のやっていることが。
こんな事で思考がショートして全く動けずにいる自分はもっと訳が分からない。
グリーンが固まってしまったのをいいことに、レッドは鼻頭、顎、首筋、襟口をずらして鎖骨、そして袖をまくって二の腕、肘、手、胸、腹、腰と、滑るように唇を当てていく。
さすがにズボンを下ろそうとした時は我に返って抵抗したが、結局捲れるところまでズボンも捲らされ、腿、膝、すね、足の先まで彼女にさらすことになってしまった。
足の先から唇を放すと、レッドはグリーンから少し離れ、硬直したままのグリーンの全身を確認し、うん、と満足そうに頷いた。
…頷かれてもグリーンは何が何だかさっぱり分からない。

「…今の何?」

レッドが離れたというのに未だに同じ体勢のまま硬直しているグリーンだが、なんとかそれだけ口にする。
まさかただのサービス、なんてことはないだろうが…

「んー……サービス?」
「ぶふぁ!?」

少し考える素振りを見せた後、首をかしげてそう言ったレッドに、グリーンはついに後ろにひっくり返った。

"サービスって何のサービスだ。"
"ていうかこんなぬるいサービス(?)に狼狽えている俺っていったい何だ。"

ひっくり返った体勢のまま悶絶するグリーンのそばにそろそろにじり寄って、静かに様子を伺っていたレッドだったが、ふと思い出したようにグリーンの頭を抱え込み、そのつむじにも口づけを落とした。

「……っ!?」
「おまじないの一種だと思ってくれればいいよ。グリーンに悪いものが寄りつきませんようにって」
「……そ、そう…」

瞬間、自分ばかりが意識していたことが恥ずかしくなってグリーンの顔が更に真っ赤に染まる。
もはや林檎を通り越して茹で蛸状態だ。

「己惚れるわけじゃないけど、低級の存在なら暫くは寄ってこないくらいの効果はあるかな…?」
「………さんきゅ」
「後はマーキングもかねて」
「……?」

最後の言葉だけは意味がくみ取れず、グリーンは不思議そうにレッドを見るが、レッドは「こっちの話だから気にしないで」と軽く笑って流した。




***






次の日、空は昨日の曇天が嘘のように晴れ上がっていた。
こんな日は比較的漂う霊の数も少ない。
だから普段より幾分か気分は晴れる。
…はずなのだが、グリーンの顔は空とは真逆に曇りきっていた。

「グリーン、浮かない顔だね」
「ああ、そうだな」

そう、まさに隣を歩く獣耳少女が原因なのだが、当人はあっけらかんとグリーンに話しかけてくる。
グリーンは諦めたようにため息をつくと、いつもよりも殺風景に映る道路を眺めた。
明らかに人通りが少ないように見えるのは、おそらくいつも見える無数の霊が、今、全く見えないからである。
グリーンに変化があったわけではなく、となりの神使、レッドの存在故にだろう。
改めて感覚を研ぎ澄ませてみれば、空気があまりにも神々しい。
心身ともにこんなに調子が良いのは本当に久々な気がする。

「…つーか、本当に学校ついてくる気か?」
「うん、長期間、多くの人が集まる場所には念も溜まりやすい。学校にいて調子が良かったことなんてなかったんじゃない?」
「………」

その通りなのだから何も言い返せない。
それに最近、学校の階段の踊り場や、少し薄暗い廊下の隅、空き教室、倉庫など、人がいる、いないに関わらず、嫌な空気を感じたり、異質なものが見えたりすることが多い。
今のところ向こうから干渉してくることはなかったが、だんだんと気配がにじり寄ってくる感覚はあった。
そんな中なので、レッドが側にいてくれることは心強いのだが…

「落ち着かないというか…またいきなりキスされたら困るというか…」

いかに神使とはいえ、自分以外の周囲の人にはレッドは見えないのだろうが、自分だけが見えている状態で、果たして普通に振る舞えるのかが非常に気がかりである。
昨晩のように、いきなりキスなんぞされたら、一人で何やら悶えているただの変態である。

「大丈夫。何も問題なければ一週間くらいもちそう」
「…あ、そう…」
「毎日分けてもらえるなら、一日中実体化することもできるよ?」

試してみる?と顔を傾けられるが、力なく首を振ることで拒否を伝える。
これ以上の混乱は御免である。
……のだが、

「グググッグリーン先輩!?」

後ろからの見事に裏返った声に、グリーンは慌てて後ろを振り返った。
同時に後ろの声の主を確認したレッドが「あ…」と声を上げる。
それが何を指すのか分からないが、とりあえずグリーンもよく聞き知った声の主の方に顔を向けた。
こちらを真っ青な顔で見ているのは、予想に違わず、グリーンの後輩であるヒビキだった。
隣には不思議そうな顔をしたコトネの姿もある。

「…はよっす、ヒビキ」

とりあえず挨拶してみるが、ヒビキは未だに固まったままグリーンを見ている。
…否、よく見れば、ヒビキの視線は自分と交わってはいなかった。
ヒビキが見ているのは…

"まさ…か……"

「な、何ですか?誰ですか?その…女の人…」
「え…」

思わずレッドを見るが、

「別に実体化してるわけじゃないよ」

としれっと言う。
状況から察するに、どうやらコトネには見えていないようであるし、おそらく本当なのだろう。

「ゆゆゆゆゆーれい!?かかっ、体透けてる!!」
「…ん?」

グリーンは再びレッドを見た。
ほっぺをさすってみる。
…別に透けてもいないし、しっかりと触れる。

「透け…?」
「あの子は〝見える子〟なんだね。グリーンみたいに強い力はないけど、うっすら僕が見える程度かな?」

興味深そうにヒビキを見るレッドに、ヒビキは小さく悲鳴を上げて後ずさる。
今にも卒倒しそうである。

「ヒビキ君?どしたの?大丈夫?」

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